GRAS物質について

GRAS物質とはGenerally Recognized As Safe「一般に安全と認められる」の頭文字を取ったものです。連邦食品医薬品化粧品法(以下、FD&C法)のセクション201(S)及び409においては食品に意図的に添加される物質は食品添加物とみなされ、販売前調査及びFDAの承認を必要とします。ただし、専門家によってこれまでの使用状況から安全であると認められたもの、もしくは食品添加物の定義から外れるものはその限りではありません。

また、FD&C法のセクション201(S)及び409とFDAが施行している連邦規則集21巻(以下、21CFR)のパート170.3及び170.30にて規定される「科学的手続を完了した物質」、または「1958年以前より食品添加物として利用されている物質」についてはGRAS物質となりえます。

・21 CFR 170.30(b)
対象物質について科学的手続によって、一般に安全であると認めるための要件として、食品添加物として許可を受ける場合と同様の科学的証拠が必要であることが挙げられる。そして、それは通常、すでに公表されている研究(場合によっては未公表研究及びその他のデータ及び情報による裏付のあるもの)に基づいていなければならないものとする。

・21 CFR 170.30(c)、21 CFR 170.3(f)
対象物質について長年の食経験に基づいて一般に安全であると認めるための要件として、多くの消費者によって長い間、継続的に使用されていることが挙げられる。

GRAS制定の歴史 History of the GRAS List and SCOGS Reviews

1958年に食品添加物の修正案が策定された際、政府は多くの物質がFDAによって、きちんとした販売前評価がされていないことに気が付きました。とはいえ、これらの物質は長年の使用によって、その安全性はすでに確認されていました。そこで政府はFD&C法のセクション201(S)において食品添加物を2段階で定義することにしました。1段階目は食品への効果を狙って意図的に添加される物質、そして、2段階目は食品添加物の定義からは外れる物質を規定したものとなっております。具体的には専門家により評価された物質や1958年以前に食品に利用されていた物質です。

最初のGRAS物質のリストは1958年12月9日に発表されました。なお、現在のリストの内容はCFRのパート182、184、186で確認できます。その種類は数百に及び食品包装用の布や紙もその中に含まれています。

FDAとアメリカ農務省は1958年9月6日以前に特定用途での使用を認めていた物質については一部を除き無条件での使用を認めました。これらの物質についてはCFRのパート181に記載があります。

しかし、1969年に当時、GRAS物質だったサイクラミン酸がラットにおいて膀胱がんを引き起こすことがわかり、市場から回収された事案を受け、国はこれまでGRAS物質のリストを発表したものの、これらの化学物質の評価をシステマチックに行っていないことを認識しました。そこでニクソン大統領は同年10月9日にGRAS物質の科学的評価を行なうようFDAに指示をしました。GRAS物質の評価は当時のFDA食品事務局(現、食品安全・応用栄養センター) の大きな課題となりました。

FDAはこれらの評価を外部機関に委託することを検討しました。その委託先が1962年に米国実験生物学会連合(FASEB)によって設立されたライフサイエンスリサーチオフィス(LSRO)です。FDAはLSROと「GRAS物質及び事前認可済物質の安全性」を評価することについて、委託契約を結びました。

LSROはGRAS物質を評価するために適切な科学者を選定して特別委員会を結成しました。そして、この特別委員会はGRAS物質特別委員会(SCOGS)と命名されました。この委員会では外部専門家の知識も借りるケースもあり、それらはLSROの意思決定の参考としました。FDAは235物質以上の評価をLSROに求めました。その中にはCFRに収載されているものだけでなく、そうでないものもありました。10年の調査研究の結果、1982年までにLSROによって151以上の報告書が発行され、その中で400以上の物質の評価が完了しました。

FDAはSCOGSより提出された報告書を連邦官報上に掲載するとともに利害関係者には委員会の公聴会に出席し、その内容に関する意見を述べる機会を提供しました。特別委員会は最終的な結論を出すにあたり、それらのデータ、情報、意見について検討します。報告書は特別委員会及びLSRO長の承認後、さらにLSRO諮問委員会によって承認されます。そして、最終的にFASEB事務局長によって承認された後にFDAに提出されます。
FDAは報告書の受領後、内容について吟味した後、仮案を策定します。そして、当該GRAS物質のステータス(GRASとして認めるのかそうでないのか)を連邦広報にて通知します。通知後、国民からの意見を受け取った後、GRASのステータスについて最終結論を下します。 最終結論は連邦規則集第21巻パート184または186の内容修正の形で収載されます。

このようにGRAS物質の選定を政府主導で進める一方、FDAは民間から国にGRAS物質としての評価を申請することができるような規則を策定しました。なぜなら、政府主導では全てのGRAS物質を網羅しきれないからです。この制度をGRAS affirmation petition processと言います。連邦規則集第21巻パート184に収載されている物質はむしろ、この制度によってGRAS申請された物質の方が多いです。しかし、この制度は企業が国に対象物質について、GRAS物質として認めるよう願い出るシステムとなっており、承認までに大変な時間を要することがネックとなっていました。(Federal Register / Vol. 62, No. 74 / Thursday, April 17, 1997 / Proposed Rules I. Background D. The GRAS Petition Process)

そこで1997年4月17日にFDAはGRAS affirmation petition processを削除し、新たな制度であるGRAS notification procedureに置き換えました。この制度は民間から当該物質がGRASとしてFDAに届け出ることができる制度となっています。ただし、その際はFDAがGRAS物質であると判断できるだけの科学的データも提出が必須です。この制度によって、年間25のGRAS物質が届出されています。また、FDAはGRASリストをインターネット上にコメントともに掲載しています。そのコメントは一般的に下記の3通りとなります。
1)当該品がGRAS物質であるという見解に疑問はない。
2)当該品がGRAS物質であると評価する根拠に乏しい。
3)申請者の要請により評価を中止した。

このGRAS notification procedureが現行のGRAS物質の申請・承認に関わる制度となっています。なお、この制度に関する最終規則はまだ決まっていません。

GRASデータベース GRAS Substances (SCOGS) Database 及び
GRAS notification procedureより申請された GRAS物質のデータベース

GRASはデータベース化されており、FDAのサイトより自由に閲覧可能です。現在、378物質がGRASリストに上がっています。また、GRAS notification procedure制度を利用して申請された物質は594物質(2015年10月現在)に上がります。

データベースリンク(FDAサイト)

→ GRAS DATABASE

→ GRAS NOTICE

データベースリンク(本サイトのデータベース)

→ GRAS物質及びGRAS申請物質データベース