CDER(医薬品評価センター)の世界

FDA医薬品評価センターは長年、海外の規制当局と連絡を取り合ってきました。そして、2005年より毎年、春と秋に各国の医薬品規制当局を招き会合を開いています。そこで各国はアメリカにおいて、医薬品評価センターがどのような医薬品承認プロセスを設けて、医薬品の安全性及び効き目を評価しているのか学ぶことができます。

このような会合の中でFDAの各国の規制当局との連携活動に関心を持つ人が急に増えていき、関心を抱いた人同士で医薬品評価センターが行っている科学研究や規制策定プロセスの勉強会を行うグループも出てきました。このような素晴らしい関心に応えるために医薬品評価センターは本サイトを立ち上げました。

このサイトは医薬品評価センターがその使命をどのようにして全うしているのか。新しくできた法律にどのように適応しているのか、公衆衛生改善のための行政科学に関する指導方針に関する情報の大枠について解説しています。

このサイトは医薬品評価センターが開催するフォーラムの内容に基づき作成されたものです。記載内容は定期的に更新され、それに伴い本サイトも大きくなっていきます。

原文のリンク先はこちら → CDER WORLD

Lesson.1 FDAのヒト用医薬品の評価方法及び承認モジュールについて

目的

このレッスンを完了すると以下のことができるようになります。
・FDAの医薬品評価や承認のプロセスの概要を説明できるようになります。
・FDAの規制当局について説明できます。
・処方薬の開発や承認のプロセスを要約できるようになります。
・市販薬の開発や承認のプロセスを要約できるようになります。

始めに

FDAは7つのセンターで構成されます。各センターはそれぞれのカテゴリーについて責任を持っています。

FDAの医薬品評価及び承認の基本

医薬品評価センター(CDER)は医薬品(生物学的製剤を含む)承認や安全性の監視について責任を持っています。FDAはCDERを通じ、製薬企業と連携することができ、企業側の負担を減少に取り組んでいます。また、安全で効果のある医薬品を適切なタイミングで適切な患者に提供するための助成を行っています。この任務を達成するために行政科学の進歩につながるリソースを提供し、科学的根拠に基づくルールを制定しています。なお、CDERは医薬品の規則の制定は行っていますが、医療活動についての規則の制定は行っていません。

FDAの法的権限

法律は国会で制定されます。その法律において、法律を運用するための権限がFDAに与えられます。FDAは法律を解釈して、運用するための規則を制定します。
そして、その規則をさらに明確化したい場合に企業向けガイダンス文書が発行されることがあります。この文書は法的拘束力はありませんが、規則制定の背景にあるFDAの考えを示したものとなります。

FDAが権限を発揮するための核となる法律が連邦食品・医薬品・化粧品法(FD&C法)です。ここで定義されるドラッグとは病気の治療や予防に用いられる他、身体機能の改善に用いられる薬品となります通常、薬というと医薬品を連想しますが、フッ素入歯磨き粉、制汗剤、ふけ取りシャンプー、日焼け止め剤などもFD&C法では薬に含まれます。これらもFDAの規制対象です。

FD&C法では医師の処方箋が必要な薬(=処方薬)と処方箋不要の薬(=OTC薬)の両方が規制対象となります。2種類の薬の承認プロセスは異なります。

栄養補助食品はFDAの規制対象ですが、CDERの管轄ではありません。これらは栄養補助食品健康教育法に基づいた規制を受けます。医薬品と栄養補助食品を見分けるのが難しい場合も多いかと思います。その時は病気を治したり、症状を和らげたりする効果を謳っているものを医薬品、そうではなく健康を改善する効果を謳っているものを栄養補助食品と考えて下さい。 栄養補助食品の法的規制については食品安全応用栄養センター(CFSAN)が責任を負っています。

処方薬の開発・承認プロセス

アメリカ国民は世界で最も安全かつ先進的な医薬品供給システムを享受することができています。
このシステムの主な監視機関がCDERです。もっとも良く知られている仕事は販売前の新規医薬品の承認ですが、CDERは不適切な医薬品の流入を防ぐだけではなく、承認済医薬品の適切な使用方法についての情報を患者や医者に提供しています。CDERは医薬品の効果がその副作用のリスクよりも大きいことを保証します。

処方薬の開発は研究所での前臨床試験から始まります。毒性が限られることの確認をはじめ、様々な試験をクリアした後に、開発会社またはそのスポンサーはFDAに臨床試験の申請をすることができます。

出資者は医薬品をヒトに使用する前にFDAに新薬臨床試験開始届(Investigational new drug application,以下IND) を提出し、承認を受けなければなりません。INDは届出された物質が新しい医薬品の候補であることを説明するためものです。FDAがその届出を受理した後にフェーズ1臨床試験を開始することができます。フェーズ1試験は20~100名の健常者を含め、年に数回、行なわれる試験です。これらの試験で医薬品の安全性や生物学的効果、代謝などを研究します。フェーズ1試験に合格するとフェーズ2試験に入ります。フェーズ2試験では数百人の被験者が治験に関与する場合があります。このフェーズでは治療効果、用量範囲、代謝について数か月から数年かけて調べられます。このフェーズの目的は薬の毒性を最小限に抑えつつ、治療効果を最大限に発揮させること及び薬の治療効果による恩恵を受ける人と副作用などの不利益を被る人の数を見積もることです。
フェーズ3は治験の最終段階です。このフェーズでは数百人から3000人ほどの被験者が関わり、1年間から4年間の臨床研究が行われます。

個々の治験プロセスにおいてFDAが関わることは治験成功の要素の一つとなります。かつては出資者とFDAはほとんどコミュニケーションを取ることがありませんでしたが、今日では継続的な対話をすることにより、効果的な治験プロセスとコスト削減を実現しています。FDAは出資者にフェーズ2の結果が出てフェーズ3に入る段階でFDAに会うことを推奨しています。このような協働は医薬品承認のプロセスを順当に進め、治験計画の合意、要求される安全性や医薬品効果の情報が適切に展開されることを保証することになります。

臨床研究が無事に完了すると出資者は新規医薬品承認申請書(new-drug application、以下NDA)をCDERに提出することが可能となります。NDAは大抵の場合は電子申請手続でもってFDAに提出され、72時間以内に評価が成されます。生物学的治療薬(ワクチンや血液など生物由来の治療薬)の場合は生物学的製剤承認申請書(biologic license application、以下BLA)をNDA同様に一連の臨床研究の完了後に提出することになります。現在の法律ではFDAはNDA及びBLAの審査手数料を製薬企業に課すことができるとされています。この手数料はFDAが審査を迅速かつ効果的に行うための資金源となり、申請時に支払うことになっています。

NDAはその医薬品に関わる全ての情報が網羅されるようデザインされています。内容としては動物実験、治験結果、構成成分(化学成分や配合情報)、体内動態、製造工程などが含まれます。さらに製造者にはその医薬品に関する書面での総合情報の記載が法的に求められています。FDAによって承認されたその情報は製品ラベルと呼ばれます。

全ての情報がFDAに提出された後、FDAはデータの評価をします。評価にあたり治験がきちんと管理されていることは特に重要です。なぜなら、治験データが医薬品の安全性や効果を評価する唯一の土台となるからです。申請書はCDER内で複数の科学的知見にて審査されます。審査チームは化学者、薬理学者、医者、薬物動態学者、統計学者、微生物学者等によって構成されます。

FDAはこれらの評価を確定する前に国民に十分に知らせることを試みています(透明性)。具体的にはCDERが開催する国民集会がこれにあたります。新規化学構造を持ち、今までアメリカ国内で使用例がない医薬品を新規化合物と言います。法的にはFDAは新規化合物の承認前に国民集会を開くことになっており、承認後でも安全上の懸念が発生した時も開くことになっています。

FDAは審査後、医薬品として承認するか否かの公式文書を発行します。承認文書の発行をもって、晴れて市場での販売が認められることとなります。非承認文書(Complete Response letter)が発行された場合はその医薬品に重要な欠陥があることを意味し、改善されるまで医薬品としての承認は受けることができません。

★ 承認前使用及び迅速承認法について
医薬品が通常、承認までは数年かかるため、特別な事情で早く欲しい患者さんのためにFDAは特別ルールを作りました。このルールでは承認前使用が認められています。このルールの元に承認前の使用が認められることをSingle-Patient Treatment IND , Compassionate use , Treatment useなどとよんでいます。また、承認までのスピードを早める方法としてPriority Review , Fast Track , Accelerated Approvalがあります。

Compassionate use(例外的使用)とは未承認医薬品を患者に使用できるようにする制度であり、その意図はあくまでも患者の治療であって薬の安全性や効果を測るためではありません。これらの未承認医薬品は試験研究中の薬と呼ばれます。承認済の全ての医薬品を使い果たした患者が、これらの薬を試すかもしれません。患者にはこれらの薬を使用することに対する利益とリスクを知る機会が与えられます。

製薬メーカーはこのような薬を個人にて適用するか、多人数に適用するかをオープン・プロトコルに沿って決定します。Compassionate useで得られたデータはFDAが評価するためのデータに含むことができます。ただし、これらのデータは適切に設計、管理された治験に基づいたものでない限りは重要視されません。

Priority Review(優先審査制度)の対象となる医薬品は大きな治療効果が期待できる、または他に適切な治療薬が存在しない医薬品に対して適用されます。この制度において、NDA提出後、通常、10か月の審査機関を要するところ、6か月以内で審査を完了させる方法をCDERは模索します。
Fast Track(早期承認制度)は重篤な症状をきたす病気または医学的必要性が満たされていない病気の治療薬に対して適用されます。例えばCDERはレビューの回数を増やして、出資者が段階式提出制度を利用できるようにしています。すなわち、一度に全ての資料を提出しなくでも、提出された部分毎に審査を受けることができるようになります。

Accelerated Approval(迅速承認制度)は重篤な病気や医学的ニーズが満たされていない病気に対して著しいメリットを提供します。この制度においては治験の早い段階で(フェーズ1より前になることもあり。)出資者がFDAに開発中の薬がこの制度の適用対象であることを知らせます。FDAの承認後、当該薬品について迅速承認制度が適用されます。
Accelerated Approvalが適用された薬品はフェーズ2の途中もしくは終わりの段階で販売が承認されます。代用エンドポイントは研究室内で得られたデータや身体的兆候に基づくもので、それ自体は実際の感覚、機能、生存率を直接測定するものではありません。とはいえ、治療的有用性を示唆するものになります。出資者はさらに治療的有用性を審査なければなりません。もし、製薬会社が治療的有用性を示すためのプロセスを完了できなかった場合は、FDAによって、承認が取り消され、回収命令が下されます。

★ 市販後調査及び疫学研究
製品の販売が承認されると市販後調査のフェーズに入ります。このフェーズでは有害事象の観測が行われます。有害事象は医薬品がもたらす予期しない、または危険な事象と定義されます。有害事象の報告は製品販売直後より始まります。法により製造者は知りえた有害事象の報告は義務付けられています。それとは逆に医療従事者(例:医者、看護師、薬剤師)には報告は義務付けられていません。ただし、推奨はされています。市販後調査担当のCDER職員は審査承認担当のCDER職員と定期的に連絡を取り合います。

もし、市販後調査において、安全性上の問題が生じた場合はFDAは下記の事項を含む適切なアクションを取らなければなりません。
・新しい情報を製品ラベルへの記載
・枠組み警告にリスク内容の記載
・製品回収
・医療及び安全上の警告の実施
・使用制限(特定の医療分野における処方を制限)
・販売制限(地元の薬局では手に入らないようにする。代わりに製造者より直接入手できるようにする。また、その際に使用方法のトレーニングやインフォームドコンセントが適切に行われていること。)
・リスク評価・リスク緩和戦略に基づき、投薬における利益がリスクを上回ることを保証
・投薬手引書(有害事象発生を防ぐための情報が記載。特定に医薬品に関してFDAが要請)、患者自身が当該医薬品のリスクを承知の上で患者自らの意思で使用できることを目指す。

市販薬の開発・承認プロセス

医療従事者による処方箋がなく、一般消費者により購入される医薬品であり、アメリカでは実に購入される医薬品の6割が市販薬となります。アメリカには30万以上もの市販薬があり個別に承認するのが困難なため活性成分や80種類の薬効分類を評価、承認しています。各カテゴリはOTC医薬品承認基準に沿って定義されています。この基準はレシピ本のように承認済活性成分、投与量、剤形などが定められています。医薬品承認基準に従った場合は製薬会社はFDAの承認なしに市販薬の製造及び販売が可能となります。

希少疾病医薬品法
アメリカ国内の希少疾病による病気や障害の治療のために設けられた制度です。患者数、20万人以下もしくは20万人以上の場合でも開発コストがリターンをペイできない場合の疾病に適用されます。